本を通して市民がつながる「まちづくりシェアライブラリー」
作品紹介
想定した敷地は、私の郷里である青森県十和田市内の商店街の一角にあり、現況は駐車場になっている。商店街は空き店舗、空地が目立ついわゆるシャッター街でかつての賑わいはない。市街地を活性化するために、市の構想のひとつに西沢立衛氏設計の十和田市現代美術館などの公共建物や通りを“市民が歩いて楽しめる”街づくりの創造に取り組んでいる。提案するライブラリーは、安藤忠雄氏設計の十和田市民図書館の分館として、市民が持ち寄った本を蔵書にして貸し出しをする“シェアライブラリー”である。ハの字に配置した壁パネルと勾配した屋根パネルが、シェアライブラリーの内外にリズム感を生み出している。市民は街の散策中に立ち寄り、シェアボックスユニットをランダムに配置したシェアライブラリーの中を、自由に回遊しながら気に入った本を探して楽しむ。このシェアライブラリーに本を通して、人と人が繋がり、街の活力再生への期待と思いを込めた。
作品概要
受賞部門 | 設計部門 |
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受賞年 | 2024年 |
賞の種類 | 特別賞(日本CLT協会賞) |
受賞者 | 瀬川 康秀(一級建築士事務所アーキショップ) |
講評
本作品は、大版のCLTをシンプルに活用し、自由で開放的な図書館空間を創出している点が高く評価されました。人々がさまざまな場所を行き交い、自然と交流が生まれる空間設計となっており、CLTの基本的な使い方を踏襲しながらも、コンセプチュアルな表現を加えた点が注目されました。また、本棚を固定の構造体ではなく、家具のように移動可能な要素として扱うことで、利用者が自由にレイアウトを変更できる柔軟性を備えている点も評価されました。さらに、本作品の立地である十和田市の街並みとの調和も大きなポイントとなりました。十和田市は、広い空とグリッド状の街路が特徴的な街であり、本作品の開放的な構成がその環境とよく馴染んでいます。特に、大きな開口部を街に対して開くことで、人々が自然に立ち寄りたくなる仕掛けが魅力的であり、街との関係性を意識した優れた提案として評価されました。街と人をつなぐ場としての可能性を示し、新しい図書館の形を提案している意欲的な作品です。